首都圏在住の若者が南相馬市を拠点に創業を目指す「南相馬市事業化実現プログラム」の第2期生による成果発表会を、2025年2月22日にあぶくま信用金庫ふれあい館で開催いたしました。
当プログラムでは、20~30代の7名が2023年度からの3カ年で南相馬市の課題をヒントに事業を創ることを目指しています。2年目となる今年度のフェーズは、「事業を整える」。7名の参加者は、メンターからサポートを受けながら実証実験を行うなどしてアイデアを磨いてきました。中には店舗物件の確定など、具体的な創業への道が見えてきたメンバーも。地域の方や昨年度卒業をした1期生など約40人の来場者を前に、事業設計の進捗や今後の展望を紹介した6人の発表を抜粋してお届けします。
奥原佑樹さん(31)
空き家を活用した飲食事業

飲食店のコンサルティングやマーケティングなどに関わる仕事をしている奥原さんは”食を通じてまちを盛り上げる”をテーマに、空き家を活用した「蕎麦カフェ」の開業を検討中です。今年度は親子ラテアート教室や、桑の葉や日本酒を使ったドリンクの試飲会を行いました。2025年は引き続きイベントを開催して開業に向けた認知度の向上を目指し、2026年にはパートナーと移住を予定しています。「食を通じて人々が集い、交流し、笑顔あふれる活気のある場にすることが理想。地域の食材にこだわった、居心地のよい空間やサービスの提供を目指します」と意気込みました。
奥原さんが店舗として検討している空き家の所有者は「地域貢献に活用してもらいたいと思っていました。近所の方からも、近くに飲食店がないのでうれしいという声が上がっています」とコメントを寄せました。
鹿祐樹さん(29)
健康課題の解決につなげるまちづくり事業

普段はスポーツトレーナーなどの仕事をしている鹿さんは、2023年から南相馬市の健康課題を解決する事業を検討しています。運動をしていない市民の割合を下げることを目指し、今までに南相馬で10回ほど気軽に身体を動かせるイベントを開催。子どもたちが健康やスポーツに触れる機会が少ないという気付きから、今後は子どもたち同士で作戦を考える4人制サッカーの大会「4v4」の開催など、スポーツと教育を掛け合わせた事業を展開予定です。「この先の未来を見据えたまち作りへの一歩となりたい」と展望を語りました。
橋詰梨花さん(26)
陶芸を通して人との交わりをつくる

首都圏と南相馬市との二拠点生活で事業検討を進めている橋詰さんは、ご自身のスキルである陶芸を通して人との交わりをつくる事業を検討しています。2024年度はマルシェや公共施設の出店などを通して地域の器への関心を感じたといい、カフェでの委託販売では、器を通してコミュニケーションが生まれているのだそう。2025年度は南相馬市の地域おこし協力隊への応募を予定しており、「陶芸のアトリエは、制作や販売のためだけではなく気軽に人とコミュニケーションが取れるような場所を考えています。まずは貸していただけるスペースやお店を増やしてファンを増やすところから始めていきたい」と展望を語りました。
当プログラムの先輩である1期生からは「梨花さんのお皿は人柄が表現されたような温かみがある。アトリエができたら陶芸もぜひやってみたい」と応援の声が上がりました。
橋詰さんの活動がわかるInstagramはこちら
笠原大靖さん(25)
水耕栽培を活用した垂直農業

大学院生の笠原さんは2023年から、限られた土地でも気候の影響が少なく安定して作物を育てられる水耕栽培の事業化を目指しています。今年度はメンターの紹介を受けた土地に小規模な水耕栽培システムを設置し、リーフレタスの試験栽培を実施。1月に収穫したところ、光や溶液のバランスで生育にばらつきが出るなど課題が見えました。「高品質な野菜を安定して生産できるように栽培環境をより最適化し、しっかりと販売につなげていきたい。面白いことを応援してくれる文化がある南相馬市で、新しい農業の形をつくりたい」と話しました。
佐地宏太さん(27)
歴史を通して観光の深化につなげるまち歩きアプリ

アプリ開発のエンジニアとして働いている佐地さんは、過去と現在の地図を重ね合わせることで、その場所の歴史が見えてくる地図アプリの開発を進めています。例えば相馬野馬追の会場となっている雲雀ヶ原祭場地は、かつて馬を敵に見立てた軍事演習として使われていました。今は競技場として整備されていますが、昔の地図では草原であることがわかります。佐地さんは今後の活用について、「表面的な観光体験ではなく、地域を深く知り『観光の深化』につなげることで、愛着がわくと思う。観光だけではなく、学校の授業や震災の歴史を通して防災の重要性を伝えることにもつなげていきたい」と語りました。
会場からは多言語化などアプリ活用に対する期待の声が寄せられ、南相馬観光協会の職員から意見交換のオファーもありました。

齋藤健さん(27)
浜通りと海外をつなぎ、地域の誇りをつくるメディア

“この地で生まれて良かったと誇りに感じられる日常をつくる”を個人のミッションとして掲げている齋藤さん。豊富な海外経験や情報発信のスキルを活かし、福島県浜通りの魅力を海外に伝えるメディアを立ち上げる予定です。名前は馬が走る音から取った「dodododo!」。

今年度は相馬野馬追で使われる甲冑などの実物を見たり、東日本大震災・原子力災害伝承館や震災遺構の請戸小学校などを訪問したりと、地域の魅力や震災の歴史に触れながらメディアのビジョンを検討。例えば野馬追の文化であれば、騎士の文化があるヨーロッパ圏に発信していくことを目指すことを想定しています。「地域のニュースや人、勢いのあるプロジェクトなどを発信していきたい」と意気込みました。
このほか北川睦深さんは、野菜を地産地消することの楽しみを発信する地産地消ライフスタイル提案事業を検討中です。今年度はイベントを開催するなど、南相馬市産の野菜の魅力を発信しています。
おわりに
発表会終了後も、発表者に話を聞きに行く来場者がいるなど新しい事業への期待感がうかがえました。近年、起業家が集まる地としても注目されている南相馬市。今回の発表でも、メンバーから「南相馬はチャレンジしやすい土壌がある」という言葉が多く上がりました。プログラムの最終年度となる2025年度は、どのように事業が広がっていくのでしょうか。南相馬市民のみなさんは、生活の中で本プログラムの事業に触れることがあれば、ぜひ応援をよろしくお願いします!

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